
自然は、言葉を超えた先生。
かつて私は、教育の世界で生きることができないと感じ、心を失い、退職しました。
たくさんの知識に出会い、考え続けるほどに、「人としてどう在るべきか」「教育とは何か」が分からなくなっていったからです。それでも今、私はもう一度、教育の場に戻ってきました。
息を吹き返したように戻ってこられたのは、ある気づきがあったからです。
大切なことは、言葉で捉えきれるものではない。
追いかけて、つかまえようとするものでもない。
それは、ただ「感じる」ことで、静かに立ち上がってくるものなのだと。
自然の中で過ごす時間、ブッシュクラフトで過ごした時間は、その入り口でした。
そして瞑想は、私を深く支えてくれました。
さらにヨーガに出会い、確信するようになったことがあります。
誰の胸の内側にも、とんでもない美しさがある。
それはとても静かで、努力して「良い人」になろうとすることや、ポジティブであろうとすることとは別の場所にあります。
怒りや苦しみ、悲しみさえも含めて、それらの体験にとらわれるのではなく、
その先にある 「いまここで生きている」という奇跡 に気づいていくこと。
私はそれを、瞑想の中で体験しました。

その体験を深めるほどに、教育者としての役割よりも、
私自身が 「確かな一致感」 をもってその場にいることのほうが、はるかに重要なのだと思うようになりました。
誰かに評価されるためではなく、指示されるためでもなく、
自分自身の内側を丁寧に取り扱いながら、安心してそこに在ること。
自然の中では、それがもっとシンプルになります。
太陽から、風から、森の木々から。
言葉で切り取ろうとしなくていい。
ただ感じるだけでいい。
私は、その時間の素晴らしさを、体験をもって確信しています。
私たちが本当に大切にしたいこと
あおぞらベースでは、ロープワーク、シェルターづくり、火おこし、ナイフワーク、野外調理——
ブッシュクラフトを中心に、野外での活動や技術を楽しく学べる時間をつくっています。
子どもたちは自然の中で挑戦しながら、たくさんの「楽しい!」を感じていきます。
でも、私たちが本当に大切にしたいのは、
その体験を通して生まれる 「感情」 です。
- 自分は何に心を動かされたのか
- どんな瞬間に、嬉しさを感じたのか
- どんな場面で、悔しさや苦しさを味わったのか
楽しかった経験は、清々しく、深く心に刻まれていきます。
そして実は、もっと人生に深みを与えるのは、うまくいかなかった時の葛藤なのだと思います。
葛藤は、その子の内側を強くします。
けれど、もしその葛藤が“ひとりきり”のまま置き去りになってしまうと、
それは積み残しの宿題のように、人生のどこかで付きまとい続けることがあります。
大人になっても、子どもの頃の「満たされなかった経験」を抱えたまま生きている人が、少なくないことを、私は知っています。
正しさとは、言葉で教わるものではありません。
体験を通して気づいていくものです。
そしてその体験とは、きっと——
「そのままの自分を受けとめてもらえた」
「信じてもらえた」
という経験ではないでしょうか。
わかってもらえた。受けとめてもらえた。
それだけで、人は少しずつ、自分のエネルギーを取り戻していきます。
自然は、常にあるがままです。
私たちもまた、そのあるがままに寄り添い、子どもたちの心の動きを丁寧に扱う時間をつくっていきます。
残される言葉と、言葉を超える時間
子どもたちのキャンプでは、「ぼうけんノート」を手渡しています。
日付や気温、場所を書き、感じたことを自由に綴るノートです。
誰かに見せるためではなく、自分のために書く。
自然の中で過ごす時間のなかで、自分の内側から生まれてくる言葉を、そのまま大切にしてほしい。
そんな願いを込めています。
そして、もうひとつ大切にしているのが、言葉にならない感覚を、そのまま味わう時間です。
そのひとつが、感覚瞑想。
視覚・聴覚・嗅覚・味覚・触覚——
五感にそっと意識を向けながら、内側と自然が静かに溶け合っていくような時間です。
もうひとつは、胸に手を当てて、鼓動と呼吸に意識を向けること。
私たちの内側で、24時間365日、休むことなく働き続けている命のリズム。
その確かさを、ただ感じる。
それだけで、子どもたちの内側に静かな灯がともっていく。
私は、その灯を「愛」と呼びたいのかもしれません。

変容の旅へ
焚き火の熱、雨の冷たさ、風の音。
思い通りにならない出来事の中で、子どもたちは自分の内側に起きる揺れを感じ、
その揺れと対話しながら、少しずつ自分で整えていく体験を重ねます。
そこには、言葉にしきれない“大きなもの”があります。
一人ひとりの内側で静かに立ち上がり、
自分の奥深くで交わされる、神さまとの時間のようなもの。
あおぞらベースで過ごす時間が、
だれかとの関係の中で“わたし”を演じて生きるのではなく、
大いなる自然の中で、地球に生きる自分として、まっすぐに感じる時間になりますように。
子どもたちは、何を自然から受け取り、何を感じるのでしょう。
私たちは、その変容の旅に伴走します。
そして、この体験が、いつでも思い出せる“安全基地”になることを願っています。
自分を知り、自分とつながり、他者とも安心してつながれる。
そんなひとときを、共に体験したいと思っています。
一般社団法人あおぞらベース
代表理事 久保元城
